
AIやデジタルツールの導入を考えるとき、補助金を使えるかどうかは気になる点です。ただ、費用の一部が補助されても、使い続けられなければ業務の改善にはつながりません。
まず、自社で変えたい仕事を一つ決め、現在の状態と期待する効果を書き出しましょう。本記事では、その整理方法と「デジタル化・AI導入補助金2026」の通常枠を確認するときの注意点を紹介します。制度情報は2026年10月8日時点の内容です。
読了目安:約6分
1. 「何を買うか」の前に、困っている仕事を一つ選ぶ
「AIを使いたい」だけでは、どの製品が合うかを判断しにくくなります。「見積書の作成に時間がかかる」「請求書の転記が多い」など、日々の仕事の中で困っていることから始めると、必要な機能を絞りやすくなります。
困りごとが複数ある場合は、発生する頻度や担当者の負担を見て、最初に改善したい仕事を一つ選びます。その仕事のすべてを自動化しようとせず、下書き、転記、確認などのうち、どこに時間がかかっているかを確かめてください。
例えば見積書なら、文章作成、単価の確認、社内承認のどこに時間がかかっているかで、必要な対策は異なります。文章の下書きが速くなっても、承認待ちが長ければ、見積もりを出すまでの日数はあまり変わらないかもしれません。
2. 課題・現在の状態・期待効果・確認方法を1枚にする
相談や製品比較に進む前に、次の4点をまとめます。下の表は、見積書作成を題材にした架空の記入例で、数字は効果の実績ではありません。
| 書く項目 | 架空の記入例 | 自社で確認すること |
|---|---|---|
| 解決したい課題 | 見積書の作成に時間がかかり、顧客への回答が遅れる | どの作業や待ち時間が負担になっているか |
| 現在の状態 | 1件60分、月20件、差し戻し月3件 | 作成・確認・修正までの時間と件数を記録する |
| 期待する効果 | 1件40分、差し戻し月1件を目指す | 速さに加え、内容の正確さも確かめる |
| 確認する人と時期 | 業務責任者が導入3か月後に確認する | 記録する担当者、確認日、判断方法を決める |
正確な数字が分からなければ、まずは数件を記録するところから始められます。導入前後で、難易度や確認範囲が大きく違う仕事を比べないようにし、繁忙期などの事情もメモしておきましょう。
確認方法は「担当者が便利と感じたか」だけで終わらせず、所要時間、差し戻し、回答までの日数など、課題に関係する項目を選びます。目標に届かなかった場合も、製品が合わないのか、使い方や業務の流れを調整する必要があるのかを話し合う材料になります。

3. 月額料金だけでなく、使い続けるための費用と時間を見る
導入費用を比較するときは、最初に支払う金額と、継続してかかる金額を分けて整理します。補助対象になる費用と、対象外の費用も区別してください。
| 費用・負担の区分 | 見積もりや相談で確かめたい内容 |
|---|---|
| 導入時 | 初期設定、既存データの移行、研修、他のシステムとの連携に必要な費用 |
| 継続利用 | 月額・年額料金、人数を増やす場合の追加料金、サポート費用、補助対象期間後の料金 |
| 社内の作業 | 操作を覚える時間、入力準備、出力の確認・修正、問い合わせ対応 |
| 運用変更 | 担当者の交代、データの取り出し、利用をやめる場合の手順や費用 |
AIが出した文章や数字を人が確認する時間も、作業時間に含めます。例えば「下書きが10分でできた」という記録だけでは、その後の確認に何分かかったかが分かりません。最初の準備から確認・修正までを同じ範囲で測ると、導入前後を比べやすくなります。
時間を短縮しても、それだけで収入が増えるとは限りません。顧客への回答を早める、提案を見直す、繁忙期の負担を減らすなど、その時間を何に使うかも考えておくと、投資の目的がはっきりします。
4. 通常枠は、登録ITツールと申請条件を確認する
デジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、中小企業・小規模事業者等が、自社の課題に合ったITツールを導入する費用の一部を補助する制度です。IT導入支援事業者が提供し、事務局に登録されたソフトウェアやサービスが対象になります。
任意のAIサービスが自動的に対象になるわけではありません。検討している製品が登録ITツールに該当するか、対象の機能や費用はどこまでかを、公式資料とIT導入支援事業者に確認してください。
補助額で必要な業務プロセス数が変わる
通常枠の補助率は原則2分の1以内です。一定の最低賃金に関する条件を満たす場合は3分の2以内になります。補助額と必要なプロセス数の区分は、次のとおりです。
| 補助額 | 必要なプロセス数 |
|---|---|
| 5万円以上150万円未満 | 1プロセス以上 |
| 150万円以上450万円以下 | 4プロセス以上 |
プロセスとは、制度が定める業務の区分です。例えば、顧客対応・販売支援、会計・財務・経営などがあります。製品の機能数をそのまま数えるものではありません。汎用・自動化・分析ツールだけの申請はできず、業務プロセスを持つソフトウェアが必要です。
150万円以上の申請では、原則として賃上げ計画も必要です。150万円未満でも、2022年から2025年に交付決定を受けた事業者は賃上げ計画が必要です。適用外となる事業者もあります。交付年度・枠・今回の申請内容によって条件が異なるため、自社に適用される条件を個別に確認しましょう。
制作費や機器代がすべて対象になるわけではない
通常枠では、ソフトウェア購入費やクラウド利用料などが補助対象となります。クラウド利用料は最大2年分です。導入設定や研修、保守サポートなども、登録された対象範囲を確認する必要があります。
ホームページの制作やハードウェアの購入費用は、通常枠の対象外です。見積もりの合計額だけで補助額を計算せず、どの費用が対象になるかを確認してください。
締切と、契約・発注する時期を先に確認する
2026年10月8日時点で、通常枠の6次締切は2026年10月30日(金)17:00です。申請には事前準備が必要です。締切に間に合わせるためだけに製品を選ばず、必要な手続きと自社の条件を相談先と確認しましょう。
補助対象として導入するITツールの契約・発注・支払いは、交付決定後に行います。申請しただけで購入に進めるわけではありません。具体的な手順と対象期間は、公募要領と公式の手続き案内で確認してください。
5. 今週は、課題と期待効果を1枚に書き出す
まずは、AIやデジタル化で解決したい課題を一つ選んでください。「課題」「現在の状態」「期待する効果」「確認する人と時期」の4点を書けば、社内で目的を共有し、相談先へ伝えるためのメモになります。確認する人は、ご自身でも構いません。
補助金の申請書とは別に、自社の判断に使うためのメモです。導入後も残しておき、実際の結果と比べてみましょう。補助金を使うかどうかは、その準備をしたうえで判断できます。
「中小企業のAI活用 入門」全5回を振り返る
このシリーズでは、社内での利用実態を知り、困りごとのある業務を一つ選び、最低限のルールを決めて小さく試す方法を紹介しました。試した後は、所要時間と浮いた時間の使い道を記録し、課題と期待効果を整理して投資を考えます。
自社ですでにできていることは活かし、まだ確認していないところから一つずつ進めてください。
公式情報を確認する
※制度情報は2026年10月8日時点です。補助額、補助率、要件、締切は変更される場合があります。申請前に最新の公募要領、FAQ、公式スケジュールを確認してください。