
AIを業務で使ってみたいと思っても、「どの仕事から始めればよいのか」で止まることがあります。最初から大きな仕組みを変える必要はありません。日々の業務のなかから、試しやすい仕事を一つ選び、今の時間や手順と比べてみるところから始められます。
前回、社内での使われ方を確認して見つけた困りごとや候補があれば、そのなかから一つを選んでみましょう。
本記事では、最初の候補を選ぶ3つの条件と、試す前にそろえておきたい記録を紹介します。AIの回答は、そのまま使わず、人が内容を確認する前提です。
読了目安:約5分
POINT
今回のポイント
- 繰り返し発生し、材料と仕上がりに型がある業務を候補にします
- AIの出力を人が確認できる範囲から、小さく試します
- 試す前の所要時間と手順を記録し、結果を比べられるようにします
最初の候補は、業務の条件から探します
AIに向く仕事を抽象的に考えるより、普段の業務を見ながら、次の3条件に当てはまるものを探す方が候補を絞りやすくなります。
1.繰り返し発生する
毎週、毎月、または依頼があるたびに行う業務を選びます。一度だけの資料作りより、繰り返す業務の方が、試した後に同じ条件で比べやすく、工夫を次回にも生かせます。
例えば、定例会議の議事録の下書き、よくある問い合わせへの回答案、定型的な案内メールの文案などが候補になります。
2.材料と仕上がりに型がある
使う資料と、完成させたい形がある程度決まっている業務を選びます。入力する情報が毎回大きく変わったり、完成の基準が人によって違ったりすると、AIに何を頼むかも定まりにくくなります。
「会議メモを、決定事項・担当・期限に分ける」「商品説明を、決めた項目順に整える」といった型があると、指示や確認のポイントをそろえやすくなります。
3.人が確認できる
最初は、AIが作った文章や整理結果を、担当者が読んで確認できる業務を選びます。誤りや抜けがあっても、人が修正してから使える範囲であれば、小さく試しやすくなります。
顧客への確定回答、契約内容、金額や法令に関わる判断などは、AIの出力だけで決めないことが必要です。試行の段階でも、最終確認を担う人を決めておきましょう。

候補を選ぶ前に、今のやり方を短く記録します
AIを試した結果を判断するには、始める前の状態を残しておくことが役立ちます。詳しい業務マニュアルを新たに作らなくても、候補ごとに次の項目を書き出せば十分です。
- 業務名:何をする仕事か
- きっかけ:いつ、誰から依頼や情報が届くか
- 使う材料:公開済みの案内文、会議メモなど、何を使うか
- 仕上がり:メール文案、要点の箇条書きなど、完成形は何か
- 今の所要時間:下書きだけでなく、確認と修正も含めてどのくらいかかるか
例えば、「月次会議のメモを、決定事項・担当・期限の3項目に整理する。公開してよい社内資料だけを材料にし、担当者が内容を確認してから共有する。現在は確認を含めて30分ほどかかる」と記録します。ここで挙げた内容は、記録方法の一例です。実際に使う資料や情報の扱いは、自社のルールに沿って決めてください。
AI活用は現場の課題から始める
総務省「令和8年版 情報通信白書」では、奈良県や京都府南部を中心に注文住宅、介護、保育などを手掛けるアイニコグループの取組が紹介されています。
同社は、全10事業部から計21人が参加する1年間のAI活用プロジェクトを実施しました。各事業部が抱える課題を出発点に、AIで解決したい課題と目標を設定し、週1回程度の勉強会で進捗を確認しました。3か月、6か月、12か月の節目には成果を共有し、最終報告会では、全10事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告されています。
この取組をそのまま小規模な会社へ当てはめる必要はありません。ただし、「AIで何ができるか」から始めるのではなく、現場の困りごとを一つ選び、途中で振り返る機会を置く考え方は、最初の試行にも取り入れやすいでしょう。
白書では、同社に業務フロー、タスクリスト、チェックシート、手順動画を整える習慣があったことも紹介されています。普段の手順を言葉にしておくことが、AIを試す際にも役立つという示唆があります。
社内ルールを決めた後、小さく試す4ステップ
今号では、候補を選び、現在の状態を記録するところまで進めます。次回ご紹介する社内ルールを決めた後の試行は、次の順に進めると、途中で判断しやすくなります。
1.候補を一つに絞る
3条件に当てはまる業務から、まず一つだけを選びます。複数の業務を同時に始めると、何が役立ったのか、どこに負担が残ったのかが分かりにくくなります。
2.使ってよい材料を決める
公開済みの資料、または使うAIサービスの契約と設定上入力が認められ、社内でも利用を承認された情報だけを、試行に使う材料としてあらかじめ決めます。個人情報や取引先の非公開情報などを入力してよいか分からない場合は、入力を保留し、社内の責任者に確認してください。
3.人が確認する箇所を決める
AIに頼む範囲と、人が確認・修正する範囲を分けます。例えば、議事録の要約案を作るところまでをAIに頼み、決定事項と期限の確認は担当者が行う、と決めておきます。
4.前後の時間と品質を比べる
一度試しただけで結論を急がず、同じ種類の業務で数回試します。所要時間だけでなく、修正が増えていないか、確認する人の負担が増えていないかも見ます。続ける、やり方を変える、いったん止めるのいずれかを判断しましょう。
THIS WEEK
今週のアクション
3つの条件に合う業務を一つ選び、
現在の所要時間を記録してください。
試行は、次回ご紹介する社内ルールを決めてからで構いません。まずは、どの業務なら安全に小さく試せるかを整理しましょう。
次回予告
次回は、生成AIを業務で使う前に決めたい社内ルールを取り上げます。「使うな」で終わらせず、安全に試すための3つの決め事をご紹介します。
参考情報
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」第I部(PDF)を確認する(アイニコグループの事例は40〜41ページ)
組合員の皆さまへ
AI活用は、便利そうなサービスを探す前に、今の仕事を一つ見直すことから始められます。繰り返し発生する業務のうち、材料と完成形が整理でき、人が確認できるものを選んでみてください。